クライエントの話を真剣に聴き、心に寄り添うセラピストという仕事は、とても意味があり、やりがいの大きい仕事です。
一方で、感情の負荷や責任の重さから「正直しんどい」「燃え尽きそう」と感じている方も少なくありません。
このページでは、セラピストとして「しんどい」と感じる背景と、燃え尽きないための具体的なセルフケアや働き方、心構えを専門的な視点から整理して解説します。
すでに限界を感じている方も、これから学び始める方も、自分を守りながら長く続けるヒントとして活用してください。
目次
セラピスト しんどいと感じるのは普通のこと?まず理解しておきたい現実
セラピストの多くが、キャリアのどこかで「しんどい」「もう続けられないかもしれない」と感じるタイミングを経験すると言われています。
それは、あなたが弱いからでも、向いていないからでもなく、人の心に深く関わる仕事そのものが、構造的にストレスフルだからです。
心理職や対人援助職では、バーンアウトや共感疲労が国際的にも問題視されており、「しんどさ」とうまく付き合う視点が専門職の必須スキルになりつつあります。
この章では、セラピストがなぜしんどくなりやすいのか、その背景を整理し、「しんどい」と感じている自分を責めないための基礎理解を深めていきます。
自分の状態を的確に把握できるほど、早い段階でケアに踏み出すことができ、重い燃え尽き症候群を防ぐことにつながります。
しんどさは専門職ならではの「職業病」にもなりうる
セラピストは、クライエントのトラウマや喪失、虐待、依存など、重く痛みの強いテーマに日常的に触れます。
こうした話を繰り返し聴くことで、共感性の高い人ほど、無意識のうちに自分の中にもストレスを蓄積しやすくなります。
この状態は共感疲労や二次受傷と呼ばれ、専門職に特有のリスクとして国際的にも注意喚起されています。
また、クライエントの安全や回復の責任を一人で抱え込んでしまうと、「自分がしっかりしないと」「失敗してはいけない」といったプレッシャーが強まり、心身を消耗させます。
このような負荷が長期間続くと、バーンアウトと呼ばれる燃え尽き状態に陥り、仕事への情熱や共感する力そのものが低下することがあります。
「向いていないからつらい」という誤解を手放す
しんどさを感じているセラピストの多くが、「自分には向いていないのでは」「本物のセラピストならこんなに疲れないはず」と自分を責めがちです。
しかし、最新の研究や臨床現場の報告では、共感性が高く、真面目で責任感の強い人ほど、しんどさを感じやすいことが明らかになっています。
つまり、しんどさを感じることは、適性のなさではなく、むしろ感受性や誠実さの裏返しとも言えます。
大切なのは、自分を責めることではなく、「どうすればこの資質を守りながら、無理なく続けられるか」という視点に切り替えることです。
そのためにも、しんどさを抱える自分を否定せず、「専門職として当然起こりうる状態」と理解しておくことが出発点になります。
しんどさのサインを早めにキャッチする重要性
バーンアウトや共感疲労は、ある日突然起こるというよりも、じわじわと進行するケースが多いとされています。
例えば「最近、セッション前に気が重い」「プライベートでもクライエントのことが頭から離れない」「寝つきが悪くなった」などの小さな変化は、心身の限界が近づいているサインであることがあります。
これらのサインを無視して働き続けると、うつ状態や体調不良で長期休職が必要になるリスクも高まります。
一方で、早い段階で自覚できれば、業務量の調整やスーパービジョンの利用、休息の確保など、さまざまな対策を打つことが可能です。
「しんどさは我慢するものではなく、早めにケアするもの」という前提を、まず心に置いておくことが大切です。
セラピストが「しんどい」と感じやすい典型的な原因
セラピストがしんどくなる要因は一つではありません。
感情的負荷、組織の環境、報酬や待遇、時間的余裕のなさ、役割の曖昧さなど、複数のストレス要因が重なり合って、疲弊感や無力感が高まっていくケースが多く見られます。
この章では、セラピストがしんどさを感じやすい典型的な原因を整理して解説します。
自分の疲れの正体を言葉にできると、どこを改善すべきかが具体的に見えやすくなり、「ただつらい」状態から一歩抜け出すきっかけになります。
感情労働としての負荷とクライエントのストーリー
セラピストの仕事は、相手の感情を受け止め、共感し、自分の感情を調整しながら関わり続けるという、典型的な感情労働です。
怒りや悲しみ、不安、絶望感といった強い感情を、日々セッションで扱うため、自分のこころのコンディションが整っていないと、あっという間に飲み込まれてしまいます。
特に、虐待や暴力、災害、喪失といった深刻なトラウマ体験に繰り返し触れる場合、二次受傷と呼ばれる反応が起こりやすくなります。
これにより、夜に思い出して眠れなくなったり、自分の価値観が揺さぶられたりすることがあります。
こうした感情労働としての負荷は、目に見えにくい一方で、確実に心身を消耗させる要因です。
終わりの見えない支援と成果へのプレッシャー
セラピーのプロセスは、人によってペースも期間も大きく異なります。
数回で変化が見えるケースもあれば、数年単位で取り組む必要があるケースも珍しくありません。
この「終わりの見えなさ」が、セラピスト側に「本当に役に立てているのか」「自分の介入は意味があるのか」といった不安を生みます。
加えて、組織や周囲から「成果」や「数字」を求められる環境では、そのプレッシャーが一層強まります。
短期間での変化を期待される一方で、クライエントのペースはそう簡単には変えられないという現実の板挟みになり、自己効力感の低下や無力感へとつながることがあります。
低賃金・長時間労働・ロールの多さなど現場の構造的な問題
多くのセラピストは、個人セッションだけでなく、記録の作成、ケースカンファレンス、家族や関係機関との調整、事務作業など、多数の役割を担っています。
その一方で、報酬水準が高いとは言えない職場も少なくなく、「責任に比べて待遇が見合わない」という不満が蓄積しやすいのが現状です。
また、慢性的な人手不足により、一人あたりの担当件数が多すぎるケースも見られます。
セッションの合間もほとんど休憩が取れず、オンライン対応や緊急対応が増えることで、オンオフの境目が失われ、常に仕事モードのような状態になってしまうことがあります。
このような構造的な問題が、しんどさを慢性化させる大きな要因となります。
セラピストが陥りやすいバーンアウトと共感疲労とは
セラピストの世界では、バーンアウトと共感疲労という二つの概念がしばしば話題になります。
どちらも、対人援助職に特有のストレス反応であり、仕事への意欲の低下や感情の枯渇、身体症状として現れることがあります。
それぞれの特徴や違いを理解しておくことは、自分自身の状態を正確に把握する上で非常に役立ちます。
ここでは、バーンアウトと共感疲労の概要とサイン、そして両者を悪化させないための基本的な考え方について解説します。
自分に当てはまる部分がないか、チェックするつもりで読み進めてみてください。
バーンアウトの特徴とサイン
バーンアウトは、燃え尽き症候群とも呼ばれ、長期にわたる仕事上のストレスによって、感情面・精神面・身体面に疲弊が生じる状態を指します。
典型的なサインとしては、仕事への意欲の低下、以前は感じていたやりがいの喪失、慢性的な疲労感、集中力の低下などが挙げられます。
また、クライエントに対して冷笑的・投げやりな気持ちが湧いてくる、自分の成果を過小評価してしまうといった変化もよく見られます。
さらに進行すると、気分の落ち込みや睡眠障害、頭痛や胃痛などの身体症状が出ることもあります。
こうしたサインに気づいたら、「頑張りが足りない」と自分を責めるのではなく、バーンアウトの可能性を疑い、負荷の調整やサポートの活用を検討することが大切です。
共感疲労と二次受傷のメカニズム
共感疲労は、トラウマを抱えたクライエントと関わる中で、支援者自身が感情的に疲弊してしまう状態を指します。
クライエントの苦痛に深く共感すること自体は、セラピーにおいて重要な要素ですが、それが過度になると、支援者の心のキャパシティを超えてしまいます。
二次受傷とは、クライエントのトラウマ体験を繰り返し聴くことで、あたかも自分自身がトラウマを受けたかのような反応が起こることを指します。
例えば、クライエントの語った出来事がフラッシュバックのように思い出される、世の中全体が危険に満ちているように感じる、といった変化が代表的です。
共感疲労を防ぐためには、「共感しつつも距離を保つ」「仕事と私生活を切り分ける」といった、プロフェッショナルとしての境界設定が重要になります。
バーンアウトと共感疲労の違いと共通点
バーンアウトと共感疲労は似ていますが、焦点となる部分がやや異なります。
バーンアウトは、仕事全体に関する慢性的なストレスと疲弊が中心であり、業務量や組織環境、役割の負担などが大きく関わります。
一方、共感疲労は、クライエントの苦痛やトラウマに共感し続けることによる、情緒面の疲れが中心にあります。
ただし、実際の現場では、この二つが同時に起こることも多く、明確に切り分けることは難しい場合もあります。
いずれにしても、根底にあるのは「負荷に対して、支える資源が不足している」というアンバランスです。
自分がどのようなストレスにさらされているのかを整理し、必要に応じて環境調整やセルフケア、専門家のサポートを組み合わせていくことが重要です。
しんどいセラピストが今すぐ取り入れたいセルフケアの基本
しんどさを和らげるためには、環境や制度の改善も重要ですが、今日から自分で取り組めるセルフケアも大きな助けになります。
セルフケアは「余裕のある人だけがやる特別なこと」ではなく、「専門職としての必須の仕事の一部」と捉えることが、現在の実務的な潮流になっています。
ここでは、忙しいセラピストでも比較的取り入れやすい、セルフケアの基本的な考え方と方法を紹介します。
小さな一歩でも、継続することで心身への負担を確実に軽減することができます。
身体のケアは心のケアに直結する
心理的な仕事をしていると、どうしても「心の問題は心で解決しよう」と考えがちですが、実際には、身体状態が心の状態に強く影響します。
睡眠不足や栄養バランスの乱れ、運動不足は、ストレス耐性を低下させ、些細な出来事にも過敏に反応しやすくなります。
まずは、基本的な生活リズムを整えることが何よりのセルフケアです。
可能な範囲で、就寝・起床時間を一定に保つ、カフェインやアルコールの取り過ぎを避ける、短時間でも体を動かすなど、現実的な目標を設定しましょう。
呼吸法やストレッチ、軽いウォーキングなどは、自律神経を整え、セッションの合間のリセットにも役立ちます。
感情のデトックスとしてのジャーナリング
セッションを重ねるうちに、クライエントの感情やストーリーが自分の中に溜まり続けると、心のスペースが次第に狭くなっていきます。
この蓄積を外に出すシンプルな方法の一つが、ジャーナリングと呼ばれる書き出しの習慣です。
その日印象に残ったこと、自分の中に生じた感情やモヤモヤ、体の感覚などを、数分で良いのでノートに書き出します。
ポイントは、上手にまとめようとせず、浮かんできたことをそのまま言葉にすることです。
書き出すことで、頭の中に渦巻いていたものが整理され、クライエントの問題と自分自身の感情を区別しやすくなります。
境界線を守るためのルールづくり
セラピストが疲弊する大きな要因の一つに、仕事とプライベートの境界線が曖昧になることがあります。
時間外の連絡に常に対応してしまう、休みの日にもクライエントのことを考え続けてしまうなど、境界が崩れると心身を休める時間が確保できません。
まずは、自分の中で「ここから先は仕事」「ここからはプライベート」というルールを明確にし、可能な範囲で実行していくことが必要です。
例えば、夜の一定時間以降は仕事のメールをチェックしない、セッションが終わったら簡単なリセットの儀式を行うなど、小さな工夫からでも構いません。
境界線を守ることは、クライエントに対して誠実であり続けるための前提条件でもあります。
スーパービジョン・相談・仲間の存在がしんどさを軽くする
専門職としてのしんどさを一人で抱え込む必要はありません。
むしろ、セラピスト同士で支え合い、スーパービジョンやコンサルテーションを活用することは、専門職としての倫理や質の向上にも直結します。
他者の視点を借りることで、自分では気づかなかったパターンや負荷のかかり方が見えてくることも少なくありません。
この章では、スーパービジョンや相談の重要性、仲間とのつながり方について整理します。
孤立感を和らげ、自分の仕事を支えるネットワークを意識的に育てていく視点が大切です。
スーパービジョンを「自分を守る技術」として捉える
スーパービジョンは、クライエント支援の質を高めるだけでなく、セラピスト自身を守る仕組みとしても非常に重要です。
難しいケースや感情的に巻き込まれやすいケースを一人で抱え続けると、判断の偏りや疲弊を招きやすくなります。
スーパーバイザーとの対話を通じて、ケースの理解を整理し、自分のカウンタートランスファレンスに気づくことで、心の負荷を軽減できます。
また、「ここまでやれれば十分」「これ以上は組織やチームの課題」といった線引きも明確になり、過剰な責任感から自分を解放する助けになります。
定期的なスーパービジョンを、自身のメンタルヘルスを守る投資と考えることが重要です。
同僚や専門家コミュニティとのピアサポート
同じような立場で働く仲間の存在は、しんどさを分かち合い、支え合ううえで大きな力になります。
日々の実務の中で感じる小さな疑問や葛藤を、安心して話せる相手がいるだけでも、孤立感は大きく和らぎます。
オンライン・オフラインを問わず、勉強会や研究会、専門職のコミュニティに参加することで、「自分だけがつらいわけではない」と実感できる機会も増えます。
ピアサポートでは、解決策を押し付け合うのではなく、お互いの経験や工夫を共有し合うスタンスが大切です。
安全な場で本音を話せる人間関係を、少しずつ育てていきましょう。
専門家に自分のためのカウンセリングを受ける選択肢
セラピスト自身が、個人的な悩みやストレスを抱えることは当然あります。
しかし、「支える側」であることに慣れていると、「自分が助けを求めてはいけない」と無意識に感じてしまうことも少なくありません。
実際には、多くの専門家が、自分自身のカウンセリングやセラピーを継続的に受けることを推奨しています。
自分のテーマを安全な場で扱うことで、クライエントとの境界が明確になり、過剰な投影や巻き込まれを防ぎやすくなります。
自分自身のケアに専門家を頼ることは、プロとしての弱さではなく、むしろ成熟した選択と言えるでしょう。
仕事のスタイルと働き方を見直してしんどさを減らす
しんどさの多くは、個人の努力だけでなく、働き方や仕事の設計そのものに起因しています。
自分の価値観やライフステージに合った働き方を模索することで、同じセラピストの仕事でも、負荷のかかり方を大きく変えることができます。
ここでは、業務量の調整やキャリアパスの見直し、収入構造の多様化など、より構造的な観点からの工夫を取り上げます。
個人で変えられる範囲と、組織や制度に働きかける範囲を区別しながら考えていくことが重要です。
担当件数・セッション時間・記録のバランスを整える
一日の中で何件のセッションをこなすか、その合間にどの程度の休憩と記録時間を確保するかは、疲労感に直結します。
「頑張ればこなせる」件数と、「長期的に無理なく続けられる」件数は必ずしも一致しません。
自分にとっての適正件数を見極めるためには、終業時の疲労度、翌日のコンディション、記録作成にかかる時間などを具体的に振り返ることが役立ちます。
可能であれば、スーパーバイザーや上司と相談しながら、担当件数やセッション時間を調整していくことが望ましいです。
また、記録業務を効率化する工夫も、負荷軽減に直結します。
多様な働き方の選択肢を知る
セラピストの働き方は、病院やクリニック、学校、企業、福祉施設、フリーランスなど、多岐にわたります。
現在の職場環境が自分に合っていないと感じる場合、場所や形態を変えることで、同じ専門性を生かしながら、しんどさを軽減できることもあります。
例えば、集中的に重いケースを扱う現場から、予防的・教育的な支援が中心の現場に移ることで、感情負荷の質が変わることがあります。
また、オンラインセッションや講座、執筆など、直接の対面支援以外の形で経験を生かす道も広がっています。
自分の価値観やエネルギーの配分に合った働き方を探ることは、中長期的なキャリア形成のうえでも重要です。
収入構造と生活の安定を考える
待遇や収入の不安定さは、精神的なストレスを増幅させます。
経済的に追い詰められた状態では、冷静な判断やセルフケアの余裕が失われがちです。
セラピストとして長く活動するためには、収入と生活の安定をどう確保するかも大切なテーマです。
一つの職場の給与だけに依存せず、講座、執筆、監修、グループワークなど、複数の収入源を組み合わせる方法もあります。
また、フリーランスで活動する場合には、料金設定やキャンセルポリシーを含め、持続可能なビジネスモデルを意識することが重要です。
お金の不安を減らすことも、実は大切なメンタルケアの一部だと考えてみてください。
スピリチュアルや瞑想との付き合い方:依存ではなく活用する視点
セラピストの中には、ヨガや瞑想、スピリチュアルな実践をセルフケアとして取り入れている方も多くいます。
これらは、うまく活用すれば、自己理解を深め、ストレスを緩和させる有益なツールになりえます。
一方で、現実からの逃避や依存的な使い方になってしまうと、かえって問題を複雑にするリスクもあります。
この章では、セラピストがスピリチュアルや瞑想とどのように付き合うとよいのか、バランスのとれた視点を整理します。
科学的な知見と、個人の実感の両方を大切にしながら活用していくことがポイントです。
瞑想・マインドフルネスがもたらすメリット
マインドフルネス瞑想は、ストレスの軽減や感情調整の手法として、臨床や企業研修など幅広い場面で活用されています。
注意を「今ここ」に戻し、湧き起こる思考や感情を評価せずに眺める練習は、セラピスト自身のセルフコンパッションを高めるうえでも有効とされています。
定期的に短時間の瞑想を行うことで、セッション中に巻き込まれ過ぎてしまったときにも、自分を俯瞰的にとらえやすくなります。
また、身体感覚への気づきを高めることで、疲労やストレスの早期サインに気づきやすくなるというメリットもあります。
重要なのは、完璧にやろうとするのではなく、無理のない範囲で続けてみることです。
スピリチュアル実践を現実逃避にしないために
スピリチュアルな教えや実践は、人生や仕事の意味を広い視点からとらえ直す助けになることがあります。
しかし、「つらさはカルマだから仕方ない」「ポジティブに考えれば全て解決する」といった単純化された解釈に頼り過ぎると、現実的な問題解決やセルフケアを後回しにしてしまうリスクがあります。
セラピストとしては、スピリチュアルな視点を持ちながらも、身体や感情、環境といった具体的なレベルでのケアを軽視しないことが重要です。
また、自分の価値観をクライエントに押し付けず、相手の世界観を尊重する姿勢も欠かせません。
スピリチュアルを、自分と向き合う一つのツールとして、バランスよく位置づけていくことが大切です。
科学的知見と個人の体験をどう統合するか
現代の心理臨床では、科学的なエビデンスと個人の主観的体験の両方を重視する流れが強まっています。
瞑想やスピリチュアルな実践についても、「自分にとってどのような変化があるか」を観察し、必要に応じて調整していく柔軟さが求められます。
例えば、瞑想によって逆に不安やフラッシュバックが強まる人も一定数いることが報告されています。
そうした場合には、無理に続けるのではなく、安全な方法や別のセルフケアに切り替えることが必要です。
自分の体験を信頼しつつ、最新の知見にも耳を傾けながら、自分なりのバランスを見つけていく姿勢が重要です。
それでもしんどいときの選択肢:休む・やめる・方向転換する
セルフケアや働き方の工夫をしても、どうしてもつらさが改善しないこともあります。
そのようなとき、「休む」「いったん離れる」「別の形で関わる」といった選択肢を検討することは、決して逃げではありません。
むしろ、自分の限界を尊重し、長い目で見てキャリアと人生を守るための大切な判断です。
ここでは、しんどさが限界に近づいたときに取りうる選択肢を整理し、自分に合ったペースで歩み直すための視点を提案します。
一時的に休むことの意味とメリット
心身のエネルギーが枯渇した状態で無理に働き続けても、セラピーの質は維持できません。
それどころか、自分自身もクライエントも傷つけてしまうリスクが高まります。
一定期間、意図的に仕事から距離を置くことは、回復と再出発のための重要なステップになりえます。
休むことによって、睡眠や生活リズムを整え直し、自分の価値観やこれからのキャリアを落ち着いて振り返る時間が生まれます。
また、仕事から離れてみて初めて、自分にとって何が負担で、何に喜びを感じていたのかが見えてくることもあります。
適切な休息は、専門職としての持続可能性を高めるための投資だと考えてみてください。
セラピストの仕事をやめる・変えることへの罪悪感
長くセラピーの道を歩んできた人ほど、「ここでやめたら、今までの努力が無駄になるのでは」「クライエントを裏切るのでは」といった罪悪感を抱きやすくなります。
しかし、キャリアの方向転換は、多くの専門職にとって自然なプロセスの一部です。
これまで培ってきた傾聴力や共感力、対人援助のスキルは、他の仕事や分野でも大いに生かすことができます。
また、自分が幸せで満たされた状態であることは、長期的に見れば、クライエントや周囲の人々にもプラスの影響を与えます。
やめる・変えるという選択肢を「逃げ」ではなく、「自分と他者の両方を大切にするための選択」として見直してみることが大切です。
キャリアチェンジ・キャリアシフトの具体例
セラピストからのキャリアシフトには、さまざまな形があります。
同じ心理領域の中で、臨床から教育・研修・スーパービジョンへと役割を変える人もいれば、企業の人事・研修部門、福祉行政、学校現場など、隣接領域へとフィールドを広げる人もいます。
また、対面の個別支援から、執筆やコンテンツ制作、講演、オンライン講座などを通じて、多人数に向けた情報発信に軸足を移すケースも増えています。
これらの選択肢は、「セラピストをやめる」のではなく、「セラピストとしての資質を別の形で活かす」と捉えることもできます。
自分の経験と興味がどこに重なりそうか、少しずつ情報収集しながら検討してみてください。
セラピストが自分を守るための心構えと実践チェックリスト
しんどさと向き合いながらも、セラピストの仕事を続けていくためには、日々の小さな実践の積み重ねが欠かせません。
ここでは、自分を守るための基本的な心構えと、日常的にチェックできるポイントをまとめます。
完璧を目指すのではなく、「できていること」「これから取り組みたいこと」を確認する指標として活用してみてください。
まず、セラピスト自身の健康と安全が守られてこそ、クライエントに対して安定した支援を提供できることを改めて心に留めておきましょう。
そのうえで、具体的な行動レベルに落とし込んでいくことが重要です。
自分の限界を知り、尊重する姿勢
専門職として成長したいという思いが強いほど、「もっとできるはず」「ここで諦めてはいけない」と、自分の限界を無視して頑張り続けてしまいがちです。
しかし、限界を無視することは、結果的にクライエントにも自分にもマイナスの影響を与えかねません。
疲労やストレスのサインに気づいたとき、「まだいける」と押し切るのではなく、「ここが今の自分の上限なのだ」と認める勇気が必要です。
限界を尊重することは、甘えではなく、プロとしての責任ある行動です。
自分のキャパシティを現実的に把握し、その範囲内で最大限の貢献をするという姿勢を大切にしましょう。
日常的にチェックしたいセルフケア項目
自分の状態を客観的に把握するには、簡単なチェックリストを用意しておくと便利です。
以下のような項目を、定期的に振り返ってみてください。
| セルフケア項目 | 最近の自分の状態 |
|---|---|
| 十分な睡眠がとれているか | はい / いいえ / どちらともいえない |
| 仕事以外の楽しみの時間があるか | はい / いいえ / どちらともいえない |
| セッションのことを考えずに過ごせる時間があるか | はい / いいえ / どちらともいえない |
| 信頼できる人に悩みを話せているか | はい / いいえ / どちらともいえない |
| 定期的にスーパービジョンや相談を利用しているか | はい / いいえ / どちらともいえない |
「いいえ」が続く項目が多い場合、自分の負荷が高まっているサインかもしれません。
一度立ち止まり、どこから整えていくかを検討してみましょう。
長く続けるために大切にしたい価値観
セラピストとして活動を続けていくうえで、何を一番大切にしたいのかという価値観を明確にしておくことは、しんどさの中で迷子にならないための羅針盤になります。
例えば、「クライエントの自己決定を尊重する」「自分の健康を守ることも専門職としての責任である」「完璧ではなく、十分によい関わりを目指す」といった、自分なりの軸を言語化してみてください。
価値観がはっきりしていれば、仕事の選び方や断り方、優先順位のつけ方もブレにくくなります。
また、しんどさを感じたときに、「この選択は自分の価値観に沿っているか」と問い直すことで、納得感のある判断がしやすくなります。
自分の人生と仕事の両方を大切にするための軸を、少しずつ育てていきましょう。
まとめ
セラピストという仕事は、人の深い苦しみや傷つきに日々触れる、負荷の高い専門職です。
「しんどい」と感じるのは、向いていないからではなく、共感性や責任感の強さの裏側にある自然な反応でもあります。
大切なのは、そのしんどさを見て見ぬふりをせず、早い段階からセルフケアと環境調整に取り組むことです。
身体のケア、感情のデトックス、境界線の設定、スーパービジョンや仲間の支え、働き方やキャリアの見直しなど、できることは一つではありません。
ときには休んだり、方向転換したりすることも、長い目で見れば、あなた自身とクライエントの双方を守る選択になりえます。
今のしんどさは、あなたが真剣に向き合ってきた証でもあります。
どうか一人で抱え込まず、自分を責めることなく、「自分を守る力」を少しずつ育てていってください。
そのプロセス自体が、セラピストとしての深い成熟につながっていきます。
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